第8回 逮捕された芸能人とファン



2009年4月23日にSMAPの草なぎ剛が逮捕された一件では、マスコミも政府も企業も放送局も全て巻き込む “かなり” 大きな騒動となりました。彼をCMに起用していた企業はそのCMを打ち切ったり、契約解除の措置を取りました。放送局では、出演見合わせや放送中止、特別編集番組の放映などの措置を取らざるを得なくなりました。彼が主演した映画は、映画配給会社によって予告編の上映自粛措置が取られ、今日(2009年4月25日)現在では公開の有無が審議されています。関係各方面に、多大な損失を与えてしまったのです。

ナイツではありませんが、Yahoo! JAPANで今回の草なぎ剛の一件について、世間の意見を調べてみました。事件の詳細や世間の動き、私の考えの一部は「今月のぼやき」2009年4月23日24日の記述を参照していただくとして、相変わらず「草なぎ擁護派」がマスコミと警察と総務大臣を非難していることがわかります。総務大臣は「彼を、地デジ大使から解任する」「最低の人間だ」と草なぎ剛を批判し、ファンから大量の抗議を受け、すぐに「『最低の人間』という発言は撤回し、『最低の行為』に訂正する」旨の声明を発表しました。罪を犯した時点で最低なことをしたのですから、私としては撤回の必要はなかったのではないかと…という感じです。

Yahoo!の記事のコメント欄には「私もそう思う」「私はそう思わない」の2つがあり、意見に対して賛同するかしないかをクリックできるようになっていますが、草なぎ剛を擁護する意見は「私もそう思う」が多数を占め、逆に非難する意見には「私はそう思わない」が多数を占めていました。もっとも、書き込まれた意見の9割以上は「草なぎ擁護論」です。

しかし、彼のしでかしたことは「酔って羽目を外した」程度のことではないのです。仕事をしたことのある人ならわかると思いますが、彼を信じてイメージキャラクターに起用した企業に迷惑をかけたのです。彼を信じてキャスティングしたテレビ局に迷惑をかけたのです。「放送自粛なんてやりすぎ」とか「草なぎくんが可愛そう」などという意見が多いのですが、本当に可愛そうなのは彼に裏切られた企業や放送局ではないでしょうか? 警察に逮捕されたタレントがテレビに安穏と出演すれば示しがつかないですし、形式的であれ自粛をするのは仕方ないことでしょう。仮に、今回は逮捕ではなく「保護」だったとしても、イメージダウンは免れなかったハズです。

「CMのスポンサーには少し幻滅しました。CM打ち切りなんてしなくっていいのにね」などという意見を書き込んでいるファンがいます。私は、SMAPをはじめタレントに甘いファンたちに幻滅しています。こうしてファンが甘やかすから、タレントたちは「世の中、なんでもアリ! 何をしたって、ファンが許してくれる! 事務所が力になってくれる!」という風潮が出来上がってしまうのではないでしょうか。

芸能界は、犯罪に緩い傾向があります。この国は、芸能人に甘いです。一般人を殴って逮捕された俳優が、数ヶ月の謹慎で現場復帰できるような世界です。もし逮捕されたのが一般人だったら、勤務先を即刻解雇されるのに…と考えると、なおさらです。私が酔っぱらって、公園で素っ裸になり、大声を出し、逮捕または保護されたら…ということを考えると、恐ろしいことこの上なし! 後々の自分のことを考えて、節度ある飲酒を心がけなくてはならないと思う次第です。

草なぎ剛は、釈放されたその日の夜に謝罪会見を開きました。それを受けて「もう許してあげたら?」「見ていて可愛そう」などというコメントを書き込むファンが多数現れました。彼らのコメントを読むにつれ、「この事件、きっかけは誰が作ったのか?」という視点がすでにぼけてしまっていることに気付かされます。謝罪会見を開いたら、それで罪は全て許されるのでしょうか? 「今回の一件で、草なぎ剛は新たなファンを獲得しましたね」などという意見を読むと、その疑問が強くなるのです。自分で事件を起こし、通報され、逮捕され、釈放され、謝罪会見を開いただけの話ではないか? 「明らかに不当逮捕」「逮捕した警察官も謝罪会見に同席すべき」などという意見もあり、草なぎ剛を逮捕した警察署にも抗議の電話が殺到したのだそうです。が、感情論で警察を非難するのは如何なものかと…。こういう意見を書き込んだ輩は、今後何があっても絶対に警察に助けを求めないでいただきたいものだと思います。

逮捕するしないは、ファンが判断することではない…。許す許さないも、ファンが決めることではない…。捜査当局が決めることです。謝罪会見に同席していた弁護士も、今回の処遇について「一般論として、逮捕要件として成立するとも考えられる」「(総務大臣の「最低の人間」発言は)こんなことをしたのだから仕方ない」と述べていたのですが、そういうネガティヴコメントはスルーして草なぎ有利のコメントばかりを引っぱるファンのほうこそ、マスコミ以上に情報操作しています。

警察批判や大臣批判が多いのは、「こんな時でないと、権力をたたけない!」「インターネットなら、何でも言える」というような弱者の “はけ口” にも利用された可能性も考えられます。そういう点で、草なぎ剛擁護という行為は “ファンの愛” によるものだけではなく、日頃は劣等感ばかり抱えている者たちの “絶好の攻撃機会” でもあったのでは…?

今なお、「被害者がいない」ということを理由に彼を擁護する人がいます。では、誰にも迷惑をかけないように部屋で一人マリファナを吸っても、世間は許すのでしょうか? いや、有り得ない話です。誰かに迷惑をかけようがかけまいが、罪は罪…。だから、みんな好き勝手することが出来ず、世の中がまとまっているのです。今回の場合、被害者云々よりも、彼の動作そのものに問題があります。そして、CM打ち切りや番組再編などを強いられた企業や放送局に多大な被害が及んでいます。何より、芸能活動を自粛しなくてはならなくなった本人に、被害が及んでいます。

財務大臣が、G7閉幕後の記者会見で “呂律が回らない” “あくびをする” “目がうつろ” などという一見して酔っているような状態を世界中にさらしたことがありました。今回の草なぎ剛を擁護したいがために、この一件を引き合いに出すファンも多数いました。別の敵を用意して、罪を軽くしようとしたり、罪の印象を薄めたり、目を逸らせるため、人間が無意識のうちにとってしまう行動の1つである。が、件の財務大臣は法に触れるような行いをしたワケではないので、比較材料として適切ではないと思うが、どうなのでしょう?

ファンが草なぎ剛を擁護したい気持ちは、痛いほどよくわかります。私だって、彼の出演番組が内容変更すると聞いて少々ガッカリしている一人です。チョナン・カンとして日韓の橋渡し的な存在となっていることについては、私も彼を尊敬しています。しかし、

世の中には、感情で動かしてはいけないことが
感情では動かせないことがたくさんある。

ということを、冷静に理解する必要があると思うのです。

「法」というものが存在する以上、それを犯せば罰せられるのは当然です。いつもは善行だからといって、罪を犯して良いワケはありません。謝罪会見まで開いて本人が罪を認めているのだったら、それを現実として受けとめるのがファンの務めではないか…と思います。

草なぎ剛のファンに、心から願うことがあります。公園で酔っぱらって裸になって寝ころんでいるオジサンたちを見ても「変質者」扱いせず、「ストレスがたまって大変なんだね」とか「誰に迷惑をかけているワケではないから」と温かな目で見てやって欲しいのです。それが出来ないのなら、ファンの戯言を私も許さない!

ただ、今回の件に興味のない国民、Yahoo!にアクセスして意見しない国民も大多数いて、単に “草なぎ剛を擁護したいがために意見を書き込んだファン” が多数いたというだけの話で、これが日本人全体の傾向ではないことを重々承知の上で私も意見しています。要するに、「応援している人だから許す」というのが法治国家で許されるのかどうか、再考を求めるための「ぼやき」です。

でも、正直な話、草なぎ画伯の新作は早くみたいものです!


追記

2009年4月25日(土)の「SmaSTATION!!」の冒頭で、香取慎吾が「SMAPのメンバーである草ナギ剛がみなさまに多大な迷惑をおかけし…」と謝罪していました。私は香取慎吾のコメントが気になって「SmaSTATION!!」を見ていたのではなく、その前に放送していた「火災調査官 紅蓮次郎」を見ていて、チャンネルを替えずにいたら偶然に…という状態だったのですが。

早速、「もう許してあげましょうよ」的なコメントがネット上に…。許すか許さないかはマスコミでもファンでも事務所でもなく、捜査当局がすることです。

香取慎吾も「草なぎ剛が今回してしまったことは、社会人として、大人として、絶対に許されることではありません」と発言していました。SMAPファンなら、メンバーの言うことを聞いたほうが良いのではないか…と思います。

そして、SMAPの他のメンバーが「絶対に許されることではない」と発言している異常事態であることを、ファンも冷静に受けとめて欲しいものだと、強く思いました。

誤解のないように述べておきますと、私は草なぎ剛が嫌いなワケではありません。むしろ、彼のことは好きです。だから「許す」のではなく、「見守る」ことが大事だと思うのです。もし今回のことを許してしまえば、彼はまた同じことを繰り返してしまうかも知れない…。見守ることで、二度と同じ失敗を繰り返させないようにするのが大事なのではないでしょうか?

でも、やっぱり、草なぎ剛を擁護する意見ばかり書き込まれているコメント欄を見ていると、「本当に “ただ酔って騒いだだけのこと” として片付けていいのかな?」と思ってしまうのも事実です。何らかの判断で警察が逮捕した容疑者を擁護する人ばかり見ていると、善悪の判断が感情によって決められているようで恐ろしい限りです